小松 純 展 KOMATSU Jun
NONF. C., 2017


2017.12.11-12.23
ギャラリー白 kuro



小松純の土の造形

国立国際美術館 学芸課長
中井 康之

 人と土との出会いは遠い過去のものである。ここでいう人とは学術名で言えばホモ・サピエンス、現生人類のことである。これまでの定説では、ホモ・サピエンスの進化は、コミュニケーション能力や狩猟の能力を持つことによって予期せぬ環境の変化に対応できる「文化」を持つに至ったことが大きかったと言われてきた。ホモ・サピエンスは3万年程前に絶滅したホモ・ネアンデルターレンシスと66万年程前に共通の祖先を持っていた。ネアンデルタール人が滅びて、我々の祖先であるホモ・サピンスが生き延びた決定的な理由は明らかではないのだが、一説には先に述べたコミュニケーション能力のような「文化」の差にあるとも言われてきた。

 さて、それでは人と土との邂逅はいつ頃のことになるのだろうか。かつて土器はメソポタミアで生まれ、日本に伝播したのは4000年前ほどである言われていた。1960年代、その日本に於いて8000年前(放射性炭素年代測定による)と考えられる土器が発見された。現在では、この日本に於いて、世界で最も古い1万6500年前と測定できる土器が青森県の大平山元遺跡から見つかっている。縄文時代と旧石器時代を区分するのは縄文土器の存在であり、それが延びているのである。もっとも、大平山元遺跡で見つかった土器は無文であり、それが縄文のような意匠をいつから纏うようになったのかは、今はまだわからない。ただ、そのような「文化」が、ネアンデルタール人との何らかの闘争に打ち勝ち、生き残った我らの祖先であるホモ・サピンスが1万数千年という気の遠くなるような時をかけて、紡ぎ出したものなのであろう。

 土を捏ねるという行為は、焼き物作りの基本中の基本である。その行為は、土の粘性を一定にすると共に土の中の気泡を取り除く重要なプロセスであり、それ無くして焼き物は成立しない。ところで、そのような作業は手がなければ当然行えない。人が他の動物と異なるのは、この手の使用によるところが大きいとも言われてきた。スタンリー・キューブリック監督のSF映画「2001年宇宙の旅」の冒頭部、我々の祖先とおぼしき2本足歩行の類人猿たちが争い、その手に取られた武器として用いられた骨が空中に放り出され、それが宇宙船に変わるシーンはとても印象的であった。おそらくはその有名な映像表現によって、キューブリック監督は、武器の使用が人類の知的進歩を促したことを象徴的に示したかったのだろう。しかしながら、そのような単純な武器の使用は、後に高度な「文明」を獲得したホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスのような他のホモ・サピエンス種とを隔てる有力な要因にはならなかったかもしれない。

 ホモ属に属する二つの種の違いについて、イスラエル人歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』の中で、「虚構」を信じることができる能力を身に付けたことが大きな役割を果たしたという新しい説を掲げている。この「虚構」とは、現在に於いても重要な精神的基盤である聖書の天地創造の物語、あるいはこの世界を実質的に支配する有力な機構である近代国家の国民主義のような神話のようなものであり、それが我々の世界を成立させている基本構造となり、根源的なシステムを担うものになっていったのだろう。我々ホモ・サピエンスはそのような「神話」を元に一つの種として存在するという世界観を生み出し、この地球上では他に逆らう者のいないような位置にまで上り詰めて自らを「霊長類」と名乗ったのである。しかしながら、その「神話」作用は地球を支配した程度でとどまる筈もなく、われわれホモ・サピエンスは、同種の中の僅かな違いによって様々なグルーピングを行い、争いを重ね、悲惨な殺戮を無数に繰り返してきた。

 ところで、ハラリは、ホモ・サピエンスが「虚構」という特殊な能力を身に付けたことを証明する一例として、およそ3 万2千年前の象牙彫りによる「ライオン人間」と称されている芸術作品(と認めることができる彫像)を提示している。その像は、宗教的意味を持つものであり、それは実際には存在しないものを想像する人類の心の能力を裏づけるものである。上記したように人が土の造形を始めた時期は、現在のところそこまで遡ることはできない。土の造形は、そのような神話作用に加担することも当然あったが、おそらくそれが生み出された最初期の実例は、人々の生活に根ざした器のようなものであったろう。そのような土の造形の特異な存在は、奇妙なもの言いに聞こえるかもしれないが、人類の「虚構」を凌駕するようなところに位置するのである。

 小松純の土の造形は、まさにそのような「虚構」と、土という物質を介在させた原始的「リアリズム」とでも形容できるようなものと、両極ともいえる原理に基づく表現手法を併行して取り入れることによってその初期からつくり出されてきた。小松作品の表現にみられる表現様式の大きな振幅は、そのような土による造形の両義性に遠因があったのである。宗教の教義を表現する役割を担わされてきた絵画・彫刻のような、完全に「虚構」を表し出すために存在し続ける芸術領域とは異なり、土の造形は「虚構」から文字通りの「リアリズム」まで担う運命にあった。小松はそのような人類史的事実に対して自覚的だったのである。今回の新作も、その二つの領域を横断するダイナミックな表現が展示空間を鮮やかに描き出すだろう。最後に付言しよう。小松の新作に現れ出た人形(ひとがた)はホモ・サピエンスばかりとは限らないだろう。



□ 略歴

1964

広島県生まれ

1987

多摩美術大学絵画科卒業

 

個展

1991

ギャラリー白

(大阪)

 

ギャラリー+1

(東京)

1992

ギャラリーNWハウス

(東京)

ギャラリー白

(大阪)

1993

ギャラリー陶園

(滋賀)

ギャラリー白

(大阪)

1994

ギャラリー陶園

(滋賀)

ギャラリーキューブ

(滋賀)

ギャラリー白

(大阪)

マスダスタジオ

(東京)

ギャラリー白

(大阪)

 

ギャラリー陶園

(滋賀)

ART SPACE JONAISAKA

(栃木)

1996

ギャラリーMOCA

(愛知)

ART SPACE JONAISAKA

(栃木)

1997

ギャラリーMOCA

(愛知)

1998

ギャラリーMOCA

(愛知)

1999

ギャラリーMOCA

(愛知)

2000

ギャラリー白

(大阪)

ギャラリーMOCA

(愛知)

2001

ギャラリー小原

(滋賀)

 

ギャラリーたつき

(東京)

 

ギャラリーエスプリヌーヴォー

(岡山)

2002

ギャラリー白

(大阪)

2003

ギャラリー小原

(滋賀)

ギャラリー白/ギャラリー白3

(大阪)

2004

ギャラリー白/ギャラリー白3

(大阪)

2005

ギャラリー白/ギャラリー白3

(大阪)

2006

ギャラリー白/ギャラリー白3

(大阪)

2007

ギャラリー小原

(滋賀)

ギャラリー白

(大阪)

2008

ギャラリー白

(大阪)

2009

ギャラリー小原

(滋賀)

ギャラリー白

(大阪)

2010

ギャラリー白

(大阪)

2011

何展

(gallery KOHARA:滋賀)

 

ギャラリー白

(大阪)

2012

ギャラリー白/ギャラリー白3

(大阪)

2013

ギャラリー白

(大阪)

2014

ギャラリー白/ギャラリー白3

(大阪)

2015

ギャラリー白

(大阪)

2016

ギャラリー白

(大阪)

2017

ギャラリー白kuro

(大阪)


グループ展

1986

故・事・通・交

(ギャラリーパレルゴン:東京)

現象の帰納展

(横浜市民ギャラリー:神奈川)

1988

Modern Art Sale 展

(京二画廊:東京)

CLAY DANCE

(O美術館:東京)

セラミック・マーケット

(ギャラリーQ+1:東京)

セラミックアネックスシガラキ'88 招待出品

 

(滋賀県立近代美術館ギャラリー/信楽伝統産業会館:滋賀)

1988

Modern Art Sale 展

(京二画廊:東京)

セラミック・マーケット

(ギャラリーQ+1:東京)

Accent of the Daichi

 

(滋賀県立近代美術館ギャラリー:滋賀)

Individual Works

(なびす画廊:東京)

clay art '88

(佐賀町エキジビットスペース:東京)

1989

THE VIEW

(ハートランド・ギャラリー:東京)

セラミックアネックスシガラキ'89

 

(滋賀県立近代美術館ギャラリー/信楽伝統産業会館:滋賀)

炎の中からのメッセージ

(信楽伝統産業会館:滋賀)

 

光のオブジェ展

(京二画廊:東京)

1990

クレイ・コネクション

(目黒美術館:東京)

国際工芸ビエンナーレ 招待出品

(バロリス市:フランス)

セラミックアネックスシガラキ'90

 

(滋賀県立近代美術館ギャラリー/信楽伝統産業会館:滋賀)

1991

土・メッセージIN 美濃

(岐阜)

セラミックアネックスシガラキ'91

 

(滋賀県立近代美術館ギャラリー/信楽伝統産業会館:滋賀)

CERAMIC SCULPTURE '91- 空間考

 

(セラミックアートギャラリー:東京)

1992

Three men's works clay

(ギャラリーすずき:京都)

CERAMIC SCULPTURE '92- 空間考

 

(セラミックアートギャラリー:東京)

1992

セラミックアネックスシガラキ'92

 

(滋賀県立近代美術館ギャラリー/信楽伝統産業会館:滋賀)

 

野外制作'92

(滋賀県立陶芸の森:滋賀)

 

陶-開かれた大地

(大阪府立現代美術センター:大阪)

1993

新広島国際空港ホテル壁面にポイントレリーフ制作

(広島)

 

ウエスタン・キャロライナ・ユニバーシティーにて訪問制作

 

(ノースキャロライナ州:アメリカ)

ウエスト・ミンスター・カレッジにて滞在制作

 

(ペンシルベニア州:アメリカ)

CERAMIC SCULPTURE '92- 空間考

 

(セラミックアートギャラリー:東京)

セラミックアネックスシガラキ'93

 

(滋賀県立近代美術館ギャラリー/信楽伝統産業会館:滋賀)

CERAMIC SCULPTURE '93 - 空間交

 

(セラミックアートギャラリー:東京)

1994

近作展17-クレイワークの4人展

(国立国際美術館:大阪)

1995

1995 陶-我の風景

(大阪府立現代美術センター:大阪)

土・メッセージIN 美濃

(岐阜)

2000

I.W.CONCU.International Ceramic Workshop 2000 参加

 

(フロリダ州:アメリカ)

2001

陶芸展<壁>

(ギャラリー白:大阪)

2003

Ceramic Site

(ギャラリー白:大阪)

2004

Ceramic Site 2004

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2005

Ceramic Site 2005

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2006

陶芸の現在、そして未来へ。 Ceramic Now +

 

(兵庫県陶芸美術館:兵庫)

Ceramic Site 2006

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2007

Ceramic Site 2007

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

倉科勇三×小松純 - 素材と身体

(ギャラリー白:大阪)

2008

陶で彩る

(東広島市立美術館:広島)

Ceramic Site 2008

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

現代陶芸作家による Ceramic site 2008

 

(京阪百貨店守口店美術画廊:大阪)

2009

Ceramic Site 2009

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2010

Ceramic Site 2010

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2011

Ceramic Site 2011

(ギャラリー白,ギャラリー白3:大阪)

2012

Ceramic Site 2012

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

Ceramic Site 2012 〜陶芸の可能性〜

 

(京阪百貨店守口店 京阪ギャラリー:大阪)

2013

Ceramic Site 2013

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2014

Ceramic Site 2014

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2015

Ceramic Site 2015

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

2016

Ceramic Site 2016

(ギャラリー白/ギャラリー白3:大阪)

 

見上げてみよう

(ギャラリーPIAS:大阪)

2017

美人画

(ギャラリー白:大阪)

Ceramic Site 2017

 

(ギャラリー白/ギャラリー白3/ギャラリー白kuro:大阪)


受賞

1990

「やきものによる公共空間への提言」コンペティション 銀賞

2011

滋賀県文化奨励賞